佐々木敦也の経済千思万考
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第1号 佐々木敦也の経済千思万考
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【サラリーマン・エコノミスト、横並びの呪縛】 2014.11.29 「内閣府が11月17日に発表した7〜9月の実質GDP速報値は前期比年率換算で1.6%減となり、公表前にはすべての民間エコノミスト(日本経済研究センターがまとめた「ESPフォーキャスト調査」での民間エコノミスト42人)がプラス成長を予想していたのに対し、総ハズレとなる結果となった。」
日経で報道された(11月24日朝刊3面)ように、民間でマイナス予測がなかった背景には、エコノミストの横並び意識がある。GDP速報値は統計が出揃わない段階で内閣府が推計し算出するため、予測にブレが生じやすいのは確かだ。今回は、速報段階で不確かな「在庫」のマイナス寄与が大きかったので、エコノミストに同情の余地はありそうだが、逆説的には、だからこそマイナス予想という「マイナー」な見方が出てきてもおかしくはなかったはずだ。
しかし、「ESPフォーキャスト調査」の民間エコノミスト42人の顔ぶれを見てみると、その理由がよくわかる。小規模または単独で活動する独立系エコノミストの顔は皆無で、すべて大企業系に所属するサラリ−マン・エコノミスト達で構成されているからである。これでは「マイナー」の予想を求めること自体がほぼ無理だと言える。
筆者は、かつて在籍した銀行でマーケットエコノミストの業務に関わったことがある。そこでは、皆が見落としている点に注目して、マーケットの平均予想から大胆に乖離する予想を行い、それを上司に報告しても、結局は平均に近い数値に丸めるよう指示を受ける、という経験をした。平均に近い予想ならば、今回のように外れても「メジャー」な見方に属するので、仕方ないな、で済んでしまうのである。いわゆる「皆で渡れば怖くない」心理である。
日経などマスコミ側にも問題がある。スポンサー企業のエコノミストばかりでなく、もっと独立系の方々の予想を紹介すべきだろう。独立系はリスクをとって発言する(仕方ない、などの態度では商売にならない)からである。結果、強弱の判断などが多様化し、リスクを取らない横並び意識による今回のような事態は少しでも回避できるように思う。
また、政府は予算編成で税収見積もりの前提で政府経済見通しをまとめるが、エコノミストの予想平均を参考にしており、予算や政策運営に大きく影響を与えている。しかし、日本経済を均質化して「平均」で見ることは、予測の強弱が持つその背景論を見逃しがち、という弊害があることをよく自覚すべきだろう。予測数字の当たり外れだけでなく、内容の吟味が極めて重要だ。
さて、総ハズレの要因を次の3点で考えてみたい。想定そのものに問題がある場合が多い。
1.「思い込み」
GDPの成長率の計算は、「前年同期比」ではなく、「前四半期比」の年率換算である。つまり、前四半期と比べるので、前の四半期の成績が良ければ、次の四半期は落ちやすく、逆に、前四半期が悪ければ、次の四半期は上がりやすい傾向がある。 今年1−3月は増税前の駆け込み需要もあり実質で年率6.0%の大幅アップ(→今回6.7%に上方修正)、4−6月は前四半期が高いことと消費税上げもあり同マイナス7.1%大幅ダウン(→今回マイナス7.3%に下方修正)であった。したがって前四半期比で計算すると、4−6月が大きく落ちたことで、7−9月は上がりやすい状態にあり、成長率はプラスに転じるとの「思い込み」がマイナス予想をさせにくい要因になったのである。
2.「希望的観測」
来年10月の消費税率上げに関して、麻生財務大臣や安倍首相は、主に今回7−9月のGDPの結果を見て判断すると、昨年から繰り返し発言していた。消費税率上げを実施するためには、7−9月のGDPの数字を見て、安倍首相は「景気も回復しているので消費税率を上げます」と言いたいところだったのだ。このプラスであってほしいという希望的観測も、マイナス予測を出しにくくした要因である。しかし、結果は想定外のマイナスで消費再増税の先送りと、「アベノミクス解散」というこれまた意外な流れとなったのである。
3.「思考停止」
上記1と2の結果でもあるが、マイナス予想ははばかれるとなると、平均値を前提にして予想した方が無難だという思考停止状態に陥る。すなわち、マイナスとなりそうな要因分析から事実上逃げてしまうのである。これでは合理的な判断は出来ないといっていい。
エコノミストの方々は、大企業のサラリーマンであっても、「経済の本質をしっかり捉え、今後の潮流を示す」という重大な責務を負っている、という気概を是非もって予測業務を行っていただきたい、横並びの呪縛から逃れてこそ、真価が問われるのである。
以上
第1号 佐々木敦也の経済千思万考
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【サラリーマン・エコノミスト、横並びの呪縛】 2014.11.29 「内閣府が11月17日に発表した7〜9月の実質GDP速報値は前期比年率換算で1.6%減となり、公表前にはすべての民間エコノミスト(日本経済研究センターがまとめた「ESPフォーキャスト調査」での民間エコノミスト42人)がプラス成長を予想していたのに対し、総ハズレとなる結果となった。」
日経で報道された(11月24日朝刊3面)ように、民間でマイナス予測がなかった背景には、エコノミストの横並び意識がある。GDP速報値は統計が出揃わない段階で内閣府が推計し算出するため、予測にブレが生じやすいのは確かだ。今回は、速報段階で不確かな「在庫」のマイナス寄与が大きかったので、エコノミストに同情の余地はありそうだが、逆説的には、だからこそマイナス予想という「マイナー」な見方が出てきてもおかしくはなかったはずだ。
しかし、「ESPフォーキャスト調査」の民間エコノミスト42人の顔ぶれを見てみると、その理由がよくわかる。小規模または単独で活動する独立系エコノミストの顔は皆無で、すべて大企業系に所属するサラリ−マン・エコノミスト達で構成されているからである。これでは「マイナー」の予想を求めること自体がほぼ無理だと言える。
筆者は、かつて在籍した銀行でマーケットエコノミストの業務に関わったことがある。そこでは、皆が見落としている点に注目して、マーケットの平均予想から大胆に乖離する予想を行い、それを上司に報告しても、結局は平均に近い数値に丸めるよう指示を受ける、という経験をした。平均に近い予想ならば、今回のように外れても「メジャー」な見方に属するので、仕方ないな、で済んでしまうのである。いわゆる「皆で渡れば怖くない」心理である。
日経などマスコミ側にも問題がある。スポンサー企業のエコノミストばかりでなく、もっと独立系の方々の予想を紹介すべきだろう。独立系はリスクをとって発言する(仕方ない、などの態度では商売にならない)からである。結果、強弱の判断などが多様化し、リスクを取らない横並び意識による今回のような事態は少しでも回避できるように思う。
また、政府は予算編成で税収見積もりの前提で政府経済見通しをまとめるが、エコノミストの予想平均を参考にしており、予算や政策運営に大きく影響を与えている。しかし、日本経済を均質化して「平均」で見ることは、予測の強弱が持つその背景論を見逃しがち、という弊害があることをよく自覚すべきだろう。予測数字の当たり外れだけでなく、内容の吟味が極めて重要だ。
さて、総ハズレの要因を次の3点で考えてみたい。想定そのものに問題がある場合が多い。
1.「思い込み」
GDPの成長率の計算は、「前年同期比」ではなく、「前四半期比」の年率換算である。つまり、前四半期と比べるので、前の四半期の成績が良ければ、次の四半期は落ちやすく、逆に、前四半期が悪ければ、次の四半期は上がりやすい傾向がある。 今年1−3月は増税前の駆け込み需要もあり実質で年率6.0%の大幅アップ(→今回6.7%に上方修正)、4−6月は前四半期が高いことと消費税上げもあり同マイナス7.1%大幅ダウン(→今回マイナス7.3%に下方修正)であった。したがって前四半期比で計算すると、4−6月が大きく落ちたことで、7−9月は上がりやすい状態にあり、成長率はプラスに転じるとの「思い込み」がマイナス予想をさせにくい要因になったのである。
2.「希望的観測」
来年10月の消費税率上げに関して、麻生財務大臣や安倍首相は、主に今回7−9月のGDPの結果を見て判断すると、昨年から繰り返し発言していた。消費税率上げを実施するためには、7−9月のGDPの数字を見て、安倍首相は「景気も回復しているので消費税率を上げます」と言いたいところだったのだ。このプラスであってほしいという希望的観測も、マイナス予測を出しにくくした要因である。しかし、結果は想定外のマイナスで消費再増税の先送りと、「アベノミクス解散」というこれまた意外な流れとなったのである。
3.「思考停止」
上記1と2の結果でもあるが、マイナス予想ははばかれるとなると、平均値を前提にして予想した方が無難だという思考停止状態に陥る。すなわち、マイナスとなりそうな要因分析から事実上逃げてしまうのである。これでは合理的な判断は出来ないといっていい。
エコノミストの方々は、大企業のサラリーマンであっても、「経済の本質をしっかり捉え、今後の潮流を示す」という重大な責務を負っている、という気概を是非もって予測業務を行っていただきたい、横並びの呪縛から逃れてこそ、真価が問われるのである。
以上