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佐々木敦也の経済千思万考

第3号  佐々木敦也の経済千思万考

 【急激な原油安:世界経済への福音なのか警鐘なのか】 2014.12.15 

「12月11日のニューヨーク市場で米WTI原油先物が1バレル=60ドルを割り込んだ。供給過剰への懸念から下落が続いており、5年ぶりに心理的な節目を下回った。
12日も大幅続落となり、米WTI原油期近先物は1バレル=57.81ドルで終了。一時は2009年5月以来となる57.34ドルと約5年7ヶ月ぶりの安値を付けた。今年6月に付けた115ドル台のピークから下落トレンドに入った原油相場は、半年に及ぶ下落局面でその水準はほぼ半分となった。欧州、中国の景気減速懸念や、米国で原油の一種「シェールオイル」の増産が続いていることを受け、「世界的な原油のだぶつきが長期化する」との見方が広がっているためだ。産油国が大きな打撃を受ける一方、消費国の日本では、ガソリンや電気料金などが安くなっており、暮らしや企業経営にメリットが波及しつつある。」

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まずは基本知識の確認をしよう。原油産出地は世界中にいくつもあるが、その中で原油価格の国際的指標とされているのが、WTI原油の価格である。WTI原油は、アメリカのテキサス州で産出される原油であり、ウェスト・テキサス・インターミディエイトの頭文字をとったものである。ニューヨーク市場で取引され、ここの基準銘柄であるが、そもそもWTI原油の産出量は非常に少なく、世界中の産出量に占める割合は僅か数パーセントである。その為、仮にWTI原油からの産出がなくなったとしても、世界的に見て大きな打撃にはならない。しかし、WTI原油はアメリカ国内の原油市場をそのまま反映し、世界的な原油価格の指標となっている。なぜ原油の指標とされるか。それはWTIの品質が高いものとして有名であり人気があること、そして投機マネーが他の原油市場に比べて多く働き、流動性が高い市場となっているからだ。そして、その変動は日本のガソリン価格にも影響を与える。

一般的に石油価格の下落は世界の成長を押し上げる。石油価格が1バレル10ドル下落すると、世界の国内総生産(GDP)の約0.5%が石油輸出国から石油輸入国に移転する、といわれる。つまり、輸入国の消費者の方が、豊富な資金を持つ石油輸出国よりすぐにお金を使う可能性が高く、安い石油の支出押し上げ効果によって世界のGDPを増やす傾向がとなるのである。しかし、今回の急激な下げは、単純に喜ぶべき事態というには、少し慎重な見方が必要なようだ。以下、今回の原油安の真因とその及ぼす影響について考えてみたい。

「供給増加論」
豊富な供給が価格を押し下げているのであれば、それは「良い下落」といえる。安い石油が最終的には世界最大級の経済大国で支出を増やすはずだからだ。

「シェールオイルつぶしという陰謀論」
原油の競合商品である米シェールガスの採算レートは60〜70ドル程度。今回の原油価格の下落により、開発に減速感が出ている。真偽はともかく石油輸出国機構(OPEC)が意識していることは確かであろう。ただし、それにしては自身の首を絞めるほどの下げ過ぎの感がある。

「需要低迷論」
需要の低迷が真因であれば、それは「悪い下落」だ。成長鈍化の症状であることを示唆しているからである。成長の鈍化はエネルギー需要の低下につながる。石油輸入国の組織である国際エネルギー機関(IEA)は最近発表した月報の中で、2014年の世界石油需要の伸び見通しを日量90万バレルとし、従来予想を15万バレル下方修正した。欧州と中国の景気減速を背景に、世界の石油需要の伸びは「驚くほどの」ペースで鈍化しているとの認識を示した。原油価格の低下の背景が世界景気の停滞を反映した石油需要の低迷であるならば、日本からの輸出は今後鈍化するかもしれない。輸入コスト増加は抑えられても、円安のメリット効果も働きにくくなり、企業業績の改善期待も後退する恐れもあろう。

「世界経済」
全体として弱い状況である。日本のGDPは四半期連続で減少。ドイツのGDPも減少し、同国は景気後退に向かっている可能性も指摘され始めた。米国の成長は最近加速しているが、景気回復は歴史的な基準からすると弱い。来年は米国利上げが視界に入るが、再び景気後退陥る可能性もある。原油安は先進国経済にとってプラスに働くとしても、多くの資源国には主力輸出品の価格下落であり、マイナス面が大きい。世界経済トータルで見れば、エネルギーコストの低下によるプラス効果が大きいとみられているが、差し引きで、どの程度のプラスかは測りにくい。マネー面で金融市場への不測のインパクトが生じる可能性も注意しておかなくてはならない。

「日本経済」
一段の円安による日本経済へのデメリットが懸念(輸入価格が押し上げられる)されているが、足元で進む原油安がショックを軽減する「緩衝剤」として期待される。輸入コスト増を抑制し、貿易赤字の拡大テンポを緩和させるからだ。原油価格が10ドル/バレル下落すると、原油・LNG輸入額が約2兆円減少する、といわれる。貿易収支の改善は国内総生産(GDP)の押し上げ要因であり、2兆円の改善はGDPを0.4%程度押し上げる規模だ。エネルギーや輸入品のコストが抑えられれば、企業業績や消費にもプラスである。物価上昇が進まなければ、日銀の追加緩和期待も高まる可能性もあるが、世界需要の低迷に真因があるならば、輸出の伸びが阻害され、日本経済の回復の阻害要因となることもありうる。

今後原油の問題が局地的なものにとどまるか、拡散するかが大きな懸念である。底値が見えない状態が続き、特にエネルギー企業が発行した高利回り債また新興市場のどこかである種の信用問題を実際に引き起こすようだと、「逆オイルショック」として世界に衝撃が走る。しばらくはWTI原油の価格の動きから目が離せない。
以上

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